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第四十四回紀念祭寮歌 《 空洞なる

長屋 博三・作詞/小林 健夫・作曲

一、
空洞うつろなる木響こだま追ひつゝ 行き暮れて丘に迷へば
紫に霧はこめて 誰が歌ぞ草笛流る
はろかなる追憶おもひにつれて 涙さへ知らず溢れぬ

二、
夢なりし三年みとせ辿りて 漂泊さすらひの兒はこご
移ろひし形相すがたみはりぬ 形容かたちこそ昔にをれど
日の本も試練こゝろみを経ぬ 雲低く行方知らぬに

三、
赤き陽を歌ひし異郷くにに 埋りてし劔も骨も
夏草にたまかへりて 新しき星は生れぬ
いざ我等共榮さかえに行かん 若き日に眞理まこと修めて

四、
アルプスの峰は霞みて 波たちぬレマンの湖畔ほとり
別れなん又逢ふ日まで 正義たゞしき永遠とは生命いのち
失はじ我のみこゝに 傳へこし北指す針を

五、
秋闌けて街の銀杏は あらはなる肌に震へど
黄金なす下葉くぐりて 契りてし友の瞳に
涙みしこともありしか 今は又君と別れん

六、
いにしへのいたみは云はじ 三つ年の勵みにをりて
収穫みのりこそ貧しかりしが 清らなる衿りにあれば
喜びのさちに溢れて 我が魂はわななきするよ

七、
冬籠り思索おもひの時は 萌え出づる力に満ちて
遠からじ春の音信しらせは 若駒の青き息吹に
彌生いやおひの柏慕ひて 来ん丘に時計臺うてな築かん

八、
巡り来て社の祭りは 四十四の齢重ねぬ
香りする橄欖の下 集ふ兒のの輝きは
花毎に溢れ餘りて いざ今宵語り明さん

                          (昭和九年)


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